"今は昔
親しい編集者がいて
火をつけた煙草を私にさしだし
「これをつかんでごらんなさい」
と言う
私はそれをつかんだ
てのひらが焼けた
「それがあなたの
一番悪いところです」
と彼は言った
彼は退社し
しばらくして
なくなった
それから何年
テレビに日本人が
うつった
アフガニスタンにしのびこみ
スパイとうたがわれて
つかまった
カメラひとつもっていない
それが彼の救いとなった
ある日の新聞に彼の顔がうつり
現地まで行った義兄に
頭をこずかれ
「すみません」
とあやまっていた
その名は柳田大元
父である編集者柳田邦夫に
よく似ていた
前のはなしとこのはなしは
どこかつながっている
誰に語りようもないこのつながりを
八十歳に手のとどく私は
自分の中で見ている"
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